犬と人間は、命の現場で初めて本当のパートナーになる
瓦礫の下の声を聞け——災害救助犬トレーナー・三好誠一の30年

三好誠一58歳
災害救助犬トレーナー / 特定非営利活動法人 日本災害救助犬育成センター(JDRTC)
兵庫県三田市・キャリア30年
兵庫県出身。1995年の阪神・淡路大震災をきっかけに警察官から転身し、災害救助犬の育成に人生を捧げる。これまでに育成した救助犬は延べ120頭以上、国内外の災害現場に派遣されたチームは38組にのぼる。2016年の熊本地震では自ら現場指揮を執り、3名の生存者発見に貢献した。
「犬を信じれば、犬は命を連れてくる」
Interviewer
今日は取材をお受けいただきありがとうございます。まず、この施設を見渡したときに感じたのですが、ここには独特の静けさがありますね。犬たちが走り回っているのに、騒然としていない。
三好誠一
よく気づいてくださいました。訓練された救助犬というのは、むやみに吠えないんです。「吠えるとき」を知っている。要救助者の匂いを見つけたとき、あるいはハンドラーに何かを知らせたいとき——それ以外は静かにエネルギーを蓄えている。この施設の静けさは、ある意味でここにいる犬たちの練度を表しているんです。私はその静けさが好きでね。毎朝ここに来るたびに、深呼吸できる気がします。
Interviewer
三好さんはもともと警察官だったと伺いました。どういう経緯でこの道に入られたのでしょうか。
三好誠一
1995年1月17日。その日は非番でした。揺れで目が覚めて、外に出たら街が……別の場所になっていた。私は当時、兵庫県警の機動隊にいたので、すぐ招集されて神戸市内の救助活動に入りました。素手で瓦礫をどかして、声を枯らして呼びかけて。でも助けられた命よりも、間に合わなかった命の方がはるかに多かった。その現場で初めて海外から来た災害救助犬チームを見たんです。スイスのチームでした。犬が一頭、瓦礫の前でキャンキャン吠えた。そこを掘ったら、おばあさんが生きていた。私はその光景が頭から離れなくて。
Interviewer
その瞬間が、転機だったんですね。
三好誠一
ええ。でも正確には「転機」というより「呪い」に近かったかもしれない(笑)。あの光景が焼き付いて、警察の仕事をしながらも「なぜ日本には自前の救助犬チームがないのか」「自分には何ができるか」ということばかり考えるようになった。当時の日本にはほとんど救助犬の文化がなかった。それが悔しくて悔しくて。震災から2年後、32歳のときに退職届を出しました。妻には大反対されましたよ。子供が生まれたばかりでしたから。
Interviewer
奥様をどう説得されたんですか。
三好誠一
説得……できていたかどうか(苦笑)。「3年だけやらせてくれ。それで芽が出なかったら戻る」と言いました。嘘ですよ、戻るつもりなんてなかった。でも妻も薄々わかっていたんじゃないかな。あいつは「3年は短いね」と言ったんです。それが「わかった」という意味だと受け取りました。今でも感謝しています。あの人がいなかったら、私はここにいない。
Interviewer
退職後はどうされたのですか。独学で始めたんでしょうか。
三好誠一
最初の1年はとにかく勉強でした。ドイツ、スイス、アメリカ——先進国の救助犬チームに手紙を書きまくって、現場を見せてもらいに行きました。お金はほぼ全部使い果たした。英語も片言で恥ずかしかったけれど、現場に立てば言葉は関係ない。犬の動き、ハンドラーの動き、すべてを体で吸収しようとしました。帰国して、まず自分の犬——ジャーマンシェパードのクロ、本名はクロノスといいます——で練習を始めた。最初は全然うまくいかなかった。犬は正直だから、こちらの焦りや迷いをすぐ感じ取る。私が不安だとクロも不安になる。それがわかるまで1年かかりました。
Interviewer
「犬は正直」という言葉が印象的です。トレーニングの中で最も難しいことは何でしょうか。
三好誠一
犬を鍛えることよりも、ハンドラーを鍛えることです。救助犬は犬だけでは機能しない。犬とハンドラーが一体になって初めてチームになる。ところがハンドラーは人間だから、プレッシャーに弱い。実際の災害現場に行ったとき、目の前に瓦礫があって、どこかで人が埋まっているとわかっていたら、誰だって焦る。その焦りがリードを通じて犬に伝わる。犬は混乱して、判断がくるう。私はいつも言うんです。「現場では、あなたが感情を持ってはいけない。感情は犬に任せろ」と。犬は感情で動いているように見えて、実は非常に論理的に匂いを追っている。人間が余計な感情を持ち込むと、その論理を壊す。
Interviewer
とはいえ、三好さん自身も感情を揺さぶられる場面はあるのではないでしょうか。2016年の熊本地震の現場指揮の話をぜひ聞かせてください。
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三好誠一
……あれは、今でも夢に見ることがあります。震災発生から3日目に私たちのチームが入った。崩壊した木造住宅の現場で、担当した犬——マックスというゴールデンレトリバーでした——がある一点でアラートを出した。でも表面上は何もない。瓦礫の重なり方から、人間の判断では「ここには空間がない」と思える場所でした。消防の方々も「ここじゃないかもしれない」と言い始めた。私はマックスを信じました。「掘ってください」と強く言った。15分掘って、やっと隙間が見えて……70代の女性が、丸くなって生きていた。その瞬間、私はマックスの首に抱きついて泣いていました。ハンドラーに感情を持つなと言っておきながら(笑)。でも、あれは仕方ない。
Interviewer
犬を信じるという決断は、プレッシャーを伴うものですよね。もし間違っていたら、という恐怖はありませんでしたか。
三好誠一
もちろんあります。でも私はこう考えるようにしています——犬が間違えることはほとんどない。間違えているとしたら、多くの場合、私たちの訓練が足りないか、あるいは私たちが犬のサインを読み違えているかのどちらかだ、と。マックスがあの場所でアラートを出したとき、私には彼の目の色が見えた。「絶対にここだ」という色でした。30年やっていると、そういうものが見えてくる。それが経験というものかもしれない。でも同時に、その「見える」という感覚に頼りすぎてはいけないとも思っている。慢心した瞬間に、命を落とす。
Interviewer
一方で、間に合わなかった経験もあると思います。そういうときはどう乗り越えてこられましたか。
三好誠一
乗り越えた、とは思っていません。正直に言うと。間に合わなかった現場の記憶は、消えないし、消してはいけないと思っている。それが次の訓練への燃料になる。ただ、落ち込みすぎると動けなくなる。だから私は必ず、現場から帰ったその日の夜に犬たちの顔を見ます。飯を食わせて、撫でて、「お前たちは精一杯やった」と言う。それが犬に向けているのか、自分に向けているのかはわからないけれど、それで翌朝また立てる。犬は不思議なもので、こちらの気持ちが沈んでいるとき、そっと寄り添ってくれる。トレーナーが犬に救われているという(苦笑)。
Interviewer
この仕事に向いている人間とは、どういう人だと思いますか。若い人たちにも届くように、聞かせてください。
三好誠一
「犬が好き」だけでは続きません。それは入口でしかない。私が見てきたなかで長く続く人というのは、「待てる人」です。成果が出るまで待てる。犬の成長を待てる。自分のスキルが形になるまで待てる。この仕事は早くて3年、普通は5年以上、実戦で使えるチームに育てるのにかかる。その間、給料は低い、社会的な認知も薄い、家族に心配をかける。それでも続けられるのは、「待つこと」を苦にしない人間だけです。あと、もう一つ。犬に謝れる人。「今日の失敗は私のせいだ」と、犬の目を見て言える人。プライドよりも犬を優先できる素直さが、この世界では何より大切です。
Interviewer
この30年で、最も印象に残っている一頭の犬を挙げるとしたら?
三好誠一
やはり最初のクロ——クロノスです。あいつは私のすべてを知っている。私が泣いたとき、怒ったとき、諦めかけたとき、ずっと隣にいた。トレーナーとして最初の「挫折」を経験したのが活動4年目でして、大きな模擬訓練で惨敗して、「やはり私には無理なのか」と本気で思った夜がありました。クロが私の膝の上に頭を乗せてきた。あの重さが、今でも手のひらに残っている。クロは12歳で逝きました。看取ったとき、「お前が教えてくれた全部を、次の世代に渡す」と約束しました。今ここにいる犬たちは、ある意味でクロの弟子なんです。
Interviewer
最後に、三好さんの仕事の哲学——「犬を信じれば、犬は命を連れてくる」というモットーについて、改めて聞かせてください。
三好誠一
災害現場というのは、人間の理性が追いつかない場所です。どこに人がいるかわからない、何が起きているかわからない、時間はない。そういう場所で唯一、確かなものがある。犬の鼻です。犬の嗅覚は人間の1万倍とも言われているけれど、私にとってそれは数字じゃない。犬は「命の匂い」を嗅ぐことができる。絶望的な瓦礫の中に、まだ生きている人がいる——その事実を、犬だけが知っている瞬間があります。だから信じるしかない。信じることは、あきらめないことと同じです。私はこの30年、あきらめなかった。それだけです。これからも、あきらめるつもりはない。
インタビューを終えた後、三好さんは施設の端にある小さな墓標のそばに立ち止まった。歴代の救助犬たちの名が刻まれた石板だ。クロノス、マックス、リーフ——名前を一つ一つ読み上げるようにして、三好さんは静かに頭を下げた。彼らが連れてきた命の数は、記録に残っている。しかし三好さんの背中には、記録には残らない重さも刻まれているように見えた。「犬と人間は、命の現場で初めて本当のパートナーになる」——その言葉の意味を、瓦礫の外で生きる私たちは、まだ半分しか理解できていないのかもしれない。
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